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温泉に一泊して帰る。今はそれが普通ですが、もともと温泉は滞在する場所でした。
農閑期に米を持ち込んで何週間も泊まり、一日に何度も湯に入る。この使い方が湯治です。数は減りましたが、今も残っている場所があります。
自炊部という部屋
湯治宿には、旅館部とは別に自炊部があります。
食事が付かず、台所を共同で使い、寝具や暖房が別料金という形が一般的です。設備は簡素で、部屋に何もないことも多くあります。
これは安く泊まる手段としてではなく、湯に長く入るための形として残ってきたものです。花巻温泉郷の大沢温泉や鉛温泉、東鳴子温泉、酸ヶ湯にその姿を見ることができます。
一泊でも泊まれますが、旅館の快適さを期待して入ると戸惑います。何を目的にその部屋を取るのかを、先に決めておくことになります。
国が最初に選んだ三か所
1954年、国は療養に適した温泉地として最初の指定を行いました。国民保養温泉地の第一号です。
選ばれた三か所のうち二つが、酸ヶ湯温泉と四万温泉でした。
酸ヶ湯は八甲田の山中に一軒だけ建つ宿で、三百年以上、湯治場として使われてきました。四万は「四万の病に効く」という言い伝えを名に持ち、療養と静養を旨とする温泉地として位置づけられたため、大型の歓楽街をつくりませんでした。
どちらも観光地として発展した結果ではなく、湯の効きが先にあった場所です。
岩の上に横たわる
玉川温泉には岩盤浴があります。
噴気地帯の一角に、地熱で温められた岩の場所があります。そこにござを敷いて横たわります。設備として作られたものではなく、地面そのものが熱を持っています。
長期滞在者が毎日通う姿が見られます。宿には自炊のための設備があり、療養を目的にした滞在が今も続いています。
湯そのものはpH1.2前後の強酸性で、そのままでは刺激が強すぎます。浴槽は源泉100パーセントと50パーセントに薄めたものに分けてあり、初めてなら薄いほうから入ります。
熱中症のような状態になることがあるので、水分を取り、時間を区切って過ごすことになります。
効きが分かりにくい湯ほど滞在向き
三朝温泉の湯はラドンを含む放射能泉で、含有量は世界有数とされます。
しかし入っても特別な感触はありません。無色透明で、硫黄泉や酸性泉のような分かりやすい刺激が一切ない湯です。
だからこそ、繰り返し入ることを前提に発達しました。三たび朝を迎えると病が癒えるという言い伝えが地名の由来とされます。三朝には温泉を医学的に研究する施設が置かれ、温泉療法の研究が続けられてきた経緯もあります。
一泊では、この湯の性格は分かりにくいままです。
飲む湯、ぬるい湯
長湯温泉には飲泉所があります。炭酸ガスを含む湯なので、飲むと発泡した感触があります。
飲泉は量と方法が定められているので、掲示に従ってください。湯を飲むという文化はドイツなどでは一般的ですが、日本では飲泉所を持つ温泉地が限られます。
炭酸は温度が上がると抜けやすいため、炭酸泉は温度が低めのものが多くなります。長湯にもぬるめの浴槽があり、ぬるい湯に長く浸かるという入り方をします。
熱い湯に短く入る飯坂とは正反対です。同じ「湯治」でも、湯の性質によって入り方が変わります。
一泊でも湯治に近づける
連泊できない場合でも、入り方は変えられます。
湯治の入り方は、長く浸かることではありません。短く入って上がり、間を置いてまた入る。これを一日に何度も繰り返します。
一泊なら、着いてすぐ、夕食前、寝る前、朝。この四回に分ければ、それなりの回数になります。長湯を一回するより、体への負担も小さくなります。
温度差を使う入り方
那須湯本の鹿の湯には、41度から48度まで温度の違う浴槽が並んでいます。
これは演出ではありません。源泉が高温で湧くため、加水せずに入れる温度まで落とす過程で、自然に複数の温度帯ができました。客は低いほうから順に体を慣らしていきます。
草津の大滝乃湯にある合わせ湯も同じ形です。草津にはもともと時間湯という入浴法が伝わり、高温の湯に短時間だけ、号令に従って全員で入るという方式でした。
いずれも、長く浸かることを目的にしていません。
湯治宿を選ぶときに
- 自炊部と旅館部では料金も設えもまったく違います。予約の段階でどちらか確認してください
- 台所・寝具・暖房が別料金の場合があります
- 連泊の献立を変える対応をしている宿があります。湯治の名残です
- 強い湯が多いので、長湯は避けてください。酸性泉や硫黄泉は湯上がりに真水で流すと負担が軽くなります






