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海藻のつかない岩
北川温泉は静岡県賀茂郡東伊豆町北川。読みは「ほっかわ」である。
この温泉地の始まりは、海のなかの岩から始まる。北川温泉観光旅館組合が「北川温泉の生い立ち」として書いているのを要約する。
昭和の初め、北川一の潜水の名人といわれた鳥沢惣太郎という人がいた。素潜りでサザエやアワビを捕っていた惣太郎は、海底にある不思議な岩が気になっていた。周りの岩は海藻で覆われているのに、その岩だけは決して海藻がつかない。
これはもしや温泉が湧いているのでは、と考えた。
三百八十尺を掘る
惣太郎は、波打ちぎわから10メートルほど入った崖下、その岩のある辺りを目測して掘り進めた。
組合の文章を引く。「すると三八〇尺(約115メートル)ほど掘ったところで摂氏90度の温泉が噴き出したのだ。噴湯の高さは二間(約3.6メートル)に及び、噴出量は毎分九斗(約160リットル)、全く塩気のない温泉だったという」。
早速浜辺に湯を引いて野天風呂を造り、部落の人に開放した。
組合はこう書き添えている。「古くからの温泉には、その由来について伝説や物語があるものが多い。しかし、昭和になってからの比較的新しい温泉で、こういったエピソードを持っているのは珍しいのだそうだ」。
伝説ではない。名前も年代もわかっている人が、海底の岩を見て掘り当てた話である。
台風が縁で旅館ができた
湯が出てからしばらく、北川は温泉地ではなかった。
組合によれば、惣太郎が掘り当てた湯は戦後三年ばかり製塩に利用されたほかは、発見当時のまま、近隣の人たちが野天で湯浴みに使っていただけだった。
変わったのは戦後である。「この温泉にキティ台風が縁となって畠山鶴吉が目をつけ温泉旅館を開業したことで温泉町・北川の開発がスタートしたのだ」。
キティ台風は1949年に関東を襲った台風だ。それが縁になった、とだけ書かれている。
昭和32年9月の業界紙には、こんな記事が載ったという。「ここは天城山の東南端、大島の噴煙をまじかにみる東海岸の波打ち際に今年のはじめから北川(ほっかわ)という新しい温泉場がお目見得した。伊東からバスで50分、熱川温泉の手前で半農半漁の小さな海岸部落である」。
半農半漁の部落、と当時は書かれている。
黒根岩風呂は今、休んでいる
北川温泉といえば「黒根岩風呂」である。海抜ゼロメートル、波打ち際の露天風呂だ。
ただし、2026年9月の時点で入れない。
北川温泉観光旅館組合の告知はこうだ。「黒根岩風呂は、施設メンテナンス工事のため、しばらくの間休業いたします。休業期間 2026年4月2日(木)〜終了日未定」。メンテナンス終了後の再開日が決まったらサイトで知らせるとしている。
再開したときのために、作りを書いておく。組合によれば完全男女別で、手前の岩風呂二つが男性用、奥の丸い湯船が女性用。営業は午前10時から午後6時まで、最終入場は午後5時45分。おむつ着用の人の入浴は遠慮してほしいとしている。
海に面した露天風呂なので、台風が近づくと高波で休業することもある。
月の道が伸びる海
北川の海には、もうひとつ名前が付いている。
満月の前後、月の光が海面に一本の道のように伸びる。組合はこれを「ムーンロード」と呼び、日本百名月に選ばれていると書いている。
満月の夜に10秒間お祈りをすると願いが叶う、という言い伝えを作って、菓子やCDまで出している。観光協会が自分たちで物語を作った例だ。
組合は「伊豆海洋保護基金」という独自の基金も持っている。海沿いの遊歩道の整備や清掃、募金活動をして、被災地への寄付も続けている。
小さな温泉地が、目の前の海を資源として扱っている。
魚の町として
北川は定置網の漁がある町だ。
組合は「北川あじ鮨」を町ぐるみで売り出していて、各施設でランチとして出している。売上の一部を海洋保護基金に回す仕組みにしている。
昭和32年の業界紙の記事には「海の幸はブリ、アジ、イカ、伊勢エビ、サザエとなかなか豊富」とあった。そこは今も変わらない。
宿の数は数軒。伊豆の東海岸では、熱川や稲取に比べてずっと小さい。そのぶん、静かに泊まれる。
着くまで
伊豆急行の伊豆北川駅から徒歩5分ほど。伊豆熱川駅からなら車で5分。
東京から特急で2時間30分ほど。ただし伊豆北川駅に特急は停まらないので、熱川駅か伊豆高原駅で乗り換えることになる。宿によっては送迎がある。
車なら東名高速の厚木ICから小田原厚木道路と国道135号経由。海沿いの道が続く。
伊豆急行の駅は熱川、北川、稲取、今井浜、河津、下田と並ぶ。どこで降りるかで泊まる温泉地が決まる。北川はそのなかでいちばん小さい。
北川温泉の日帰り入浴
- 海沿いの遊歩道
- 伊豆大島を望む海岸
- 熱川温泉の湯けむり
伊豆急行で熱川、稲取、今井浜、河津、下田へ出られる。
受付時間・定休日・料金は施設ごとに異なり、変更されることもあります。 お出かけの前に各施設の案内をご確認ください。
温泉地カルテ
冬・春
- 所在地Location
- 静岡県
- 泉質Spring Quality
- 塩化物泉・硫酸塩泉
- 最寄駅Nearest Station
- 伊豆急行 伊豆北川駅(徒歩約5分)/伊豆熱川駅(車約5分)
- 東京からFrom Tokyo
- 約2時間30分
- 大阪からFrom Osaka
- 約4時間30分
※ 泉質・泉温・pH は代表的な源泉の値です。施設ごとに異なる場合があります。 効能は泉質の一般的な適応症であり、効果を保証するものではありません。
北川温泉のよくある質問
Q黒根岩風呂は入れますか
2026年9月時点では入れません。北川温泉観光旅館組合は「黒根岩風呂は、施設メンテナンス工事のため、しばらくの間休業いたします。休業期間 2026年4月2日(木)〜終了日未定」と告知しています。メンテナンス終了後の再開日は組合のサイトで知らせるとしています。行く前に必ず確かめてください。
Q北川温泉はどうやって見つかったのですか
北川温泉観光旅館組合が詳しく書いています。昭和の初め、北川一の潜水の名人といわれた鳥沢惣太郎が、周りの岩が海藻で覆われているのにその岩だけ海藻がつかないことに気づいた。温泉が湧いているのではと考え、波打ちぎわから10メートルほど入った崖下を掘り進めたところ、380尺(約115メートル)で摂氏90度の温泉が噴き出した。噴湯の高さは二間(約3.6メートル)、噴出量は毎分九斗(約160リットル)だったといいます。
Q温泉旅館ができたのはいつですか
戦後です。組合は、惣太郎が掘り当てた湯は戦後三年ばかり製塩に使われたほかは、近隣の人たちが野天で湯浴みに使っていただけだったと書いています。そこへキティ台風が縁となって畠山鶴吉が目をつけ、温泉旅館を開業したことで温泉町としての開発が始まったとしています。昭和32年の業界紙には「今年のはじめから北川という新しい温泉場がお目見得した」という記事が載ったそうです。
Q北川の読み方は何ですか
「ほっかわ」です。「きたがわ」ではありません。伊豆急行の駅名も伊豆北川(いずほっかわ)です。予約サイトで探すときは読みに注意してください。
Q泉質を教えてください
静岡県温泉協会は東伊豆温泉郷(大川、北川、熱川、片瀬、白田、稲取)の主な泉質をナトリウム-塩化物泉としています。宿はナトリウム・カルシウム塩化物泉と表示するところもあります。塩分を含むので体が温まりやすく、湯冷めしにくい湯です。
Qどんな温泉地ですか
小さな漁村の温泉地です。旅館組合に載る宿は数軒。海沿いに遊歩道があり、満月の夜には海に月の道が伸びます。組合はこれを「ムーンロード」と呼び、日本百名月にも選ばれています。地元の定置網でとれた魚を使った「北川あじ鮨」を町ぐるみで出しています。
ほかの温泉地と比べる
北川温泉の宿

北川温泉ホテル
静岡県賀茂郡東伊豆町奈良本、伊豆北川の海沿いに建つ28室の宿。全室が海側を向く。最上階の展望風呂は男女とも同じ大きさで、上から見下ろすと海の底まで見えると宿は書く。北川温泉共用の波打ち際の露天風呂「黒根岩風呂」も使えると登録しているが、その黒根岩風呂は2026年4月2日から工事のため休業している。伊豆北川駅から近い。

伊豆北川温泉 お祝いの宿 吉祥CAREN
北川温泉の30室の宿。檜の露天風呂から相模湾と伊豆大島を一望できる。晴れた日には昇る朝日や月の道が見えると宿は書く。伊豆熱川駅から送迎あり。
UPDATED 2026.09.25

