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草津の隣にある、正反対の湯
沢渡温泉は群馬県吾妻郡中之条町上沢渡。草津温泉と四万温泉のあいだ、峠を隔てた山間にある。
草津は日本でもっとも酸性の強い湯のひとつだ。pHが2を切る湯は殺菌力が高いかわりに肌を削る。長く入れば皮膚が荒れる。その荒れた肌を整えるために使われたのが沢渡の湯だった、と沢渡温泉組合は説明している。
組合の文章を引く。「湯治で草津を訪れ、その強酸性の湯に肌を痛めた湯治客が、沢渡の湯でその肌を癒したとされ、草津の治し湯・仕上げ湯とも言われています」。
車で30分ほどの距離に、性格が正反対の湯がある。そういう並びは全国を探しても多くない。
一浴玉の肌
沢渡の湯をあらわす言葉として土地に伝わっているのが「一浴玉の肌」である。一度浸かれば肌が玉のようになる、という意味だ。
組合はこう書いている。「沢渡の湯は、無色透明の硫酸塩泉で肌ざわりが軟らかく、入り心地のなめらかさは元祖美肌の湯とたたえられ、一浴玉の肌といわれるようになりました」。
泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉。硫酸塩泉は、硫黄泉のような匂いも、酸性泉のような刺激もない。透明で、味も薄い。派手さがないぶん、入っているあいだに湯のなめらかさだけが残る。
組合は「治療に温泉を利用した沢渡温泉病院もあり、泉質の良さはお墨付きです」とも書いている。ただし効き方は人によるから、持病があるなら医師に確かめてから入りたい。
共同浴場はひとつだけ
温泉街に共同浴場はひとつしかない。中之条町上沢渡2310、営業は9時から20時30分。男女とも内湯で、熱い湯とぬるい湯の二槽がある。
組合は「地元の人も多く利用するので、素朴なふれあいで旅もぐっと楽しくなることでしょう」と書いている。観光客向けに作られた施設ではなく、集落の風呂に旅行者が混ぜてもらう形だ。
温泉街の旅館に泊まっていれば、宿でもらえる入浴許可証を持参すると入湯料が要らない。宿の風呂と共同浴場を行き来できるので、一泊でも湯を二種類の温度で試せる。
蘭学は、この温泉地から始まった
沢渡には、湯とは別の歴史がある。
天保2年、漢方医学に行き詰まりを感じた福田宗禎を中心とする吾妻の医師たちが、西洋医学を取り入れるために蘭学者の高野長英を沢渡に招いた——と組合は記している。長英はシーボルトの鳴滝塾に学び、師からドクトルの称号を与えられた人物だ。
天保7年には再び沢渡へ来たことが宗禎の日記に残っているという。組合は「こうして吾妻の蘭学は沢渡温泉に起こり、高橋景作、柳田禎蔵などの門下生を輩出した」と書く。
山あいの湯治場が、一時期、日本の西洋医学の最前線だった。温泉に浸かりながら思い出すと、湯の見え方が少し変わる。
牧水が越えた暮坂峠
歌人の若山牧水は大正11年、信州から草津を経て暮坂峠を越え、沢渡へ下った。この旅は紀行文「みなかみ紀行」として大正13年に刊行されている。
暮坂峠には、牧水が残した数少ない詩のひとつ「枯野の旅」を刻んだ詩碑が昭和32年に建てられた。今では峠のシンボルになっている。
草津から沢渡へ歩いて下りるという道順は、湯治の順番そのものでもある。強い湯に浸かってから、やわらかい湯で仕上げる。牧水がそこまで意識していたかはわからないが、道は湯のつながりに沿っていた。
エッセイストが選んだ湯
組合のページには、作家の嵐山光三郎がこの湯を評した言葉も載っている。「極上の泉質、ベスト5に入る」「軀を湯のなかに分解してしまうようななめらかさがある」。
組合はさらに、嵐山流の共同浴場の入り方まで紹介している。熱いほうの浴槽に1分入り、出て体を冷ます。また1分入る。これを繰り返すと体の芯から温まるという。
熱い湯とぬるい湯が並んでいる浴場だからできる入り方だ。ひとつの浴槽をだらだら使うのではなく、往復する。
どう組み立てるか
沢渡は、それ単独で三泊するような温泉地ではない。宿は八軒、共同浴場はひとつ、土産物屋が並ぶ通りもない。
組み立て方は二つある。ひとつは草津とつなぐこと。強い湯で体を刺激してから、沢渡で仕上げる。土地が数百年やってきた順番をなぞる。
もうひとつは四万とつなぐこと。四万も飲用で知られる穏やかな湯で、沢渡からは車で30分ほど。刺激の少ない湯を二つ続けて、山あいの静けさだけを取りに行く旅になる。
どちらにしても、沢渡で一泊する理由ははっきりしている。透明でやわらかい湯に、人の少ない浴場で浸かること。それ以上のことは何もない。
沢渡温泉の日帰り入浴
- 沢渡温泉共同浴場
- 暮坂峠と若山牧水の詩碑
- 四万温泉
- 中之条町歴史と民俗の資料館ミュゼ
共同浴場の営業時間は9時から20時30分と組合は案内しているが、変わることがあるので当日確かめてほしい。
受付時間・定休日・料金は施設ごとに異なり、変更されることもあります。 お出かけの前に各施設の案内をご確認ください。
温泉地カルテ
春・秋・冬
- 所在地Location
- 群馬県
- 泉質Spring Quality
- 硫酸塩泉・塩化物泉
- 最寄駅Nearest Station
- JR吾妻線 中之条駅からバスで約25分
- 東京からFrom Tokyo
- 上野駅から特急で中之条駅まで行き、そこからバスで約25分。車なら関越道の渋川伊香保ICから約50分。
※ 泉質・泉温・pH は代表的な源泉の値です。施設ごとに異なる場合があります。 効能は泉質の一般的な適応症であり、効果を保証するものではありません。
沢渡温泉のよくある質問
Q泉質は何ですか
沢渡温泉組合はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉と案内しています。無色透明で肌ざわりがやわらかい硫酸塩泉です。効能として切り傷、やけど、神経痛、慢性消化器病、冷え性、病後回復期などを挙げていますが、効き方は人によるので、持病があれば医師に確かめてから入ってください。
Q草津の仕上げ湯とはどういう意味ですか
沢渡温泉組合は、草津を訪れて強酸性の湯で肌を痛めた湯治客が、沢渡の湯でその肌を癒したとされる、と書いています。そこから草津の治し湯、仕上げ湯と呼ばれるようになった、というのが土地の説明です。源頼朝が草津で肌を痛めたあと沢渡に浸かった、という伝承も組合は紹介しています。
Q共同浴場はありますか
あります。沢渡温泉街で唯一の共同浴場が中之条町上沢渡2310にあり、組合は営業時間を9時から20時30分としています。男女とも内湯で、熱い湯とぬるい湯の二槽があるので体調に合わせて選べます。温泉街の旅館に泊まっている人は、宿でもらう入浴許可証を持っていけば入湯料が無料になると組合は案内しています。
Qどのくらいの規模の温泉地ですか
小さな温泉地です。沢渡温泉組合が載せている宿は住吉屋旅館、山水荘もりや、龍鳴館、宮田屋旅館、三喜屋旅館、まるほん旅館、かねとく旅館、古民家の宿 金木の八軒。大きなホテルはなく、歩いて回れる範囲に宿と共同浴場が固まっています。
Q草津温泉や四万温泉とはどう行き来しますか
沢渡は草津と四万のちょうどあいだにあります。どちらへも車で30分前後。バスで来る場合はJR吾妻線の中之条駅が起点で、四万温泉行きと沢渡方面では路線が分かれるので、乗る前に行き先を確かめてください。草津から暮坂峠を越えて沢渡へ下る道は、若山牧水が歩いた道でもあります。
ほかの温泉地と比べる
沢渡温泉の宿

沢渡温泉 まるほん旅館
創業400年と沢渡温泉組合は紹介している群馬県吾妻郡中之条町上沢渡甲2301、沢渡温泉の共同浴場のすぐ横に建つ全10室の宿。床も壁も天井も檜で造った混浴の湯小屋、天窓から光が落ちる婦人風呂、青森ヒバの貸切露天という三つの風呂を持ち、宿は源泉から直接引いたかけ流しと案内する。婦人風呂はJCDデザインアワード2016で金賞を受けた。ひとりで泊まれる6畳の部屋がある。

沢渡温泉 若山牧水ゆかりの宿 龍鳴館
沢渡温泉街のほぼ中央、源泉にもっとも近い11室の宿。源泉100%かけ流しで飲泉もでき、24時間入れる。檜張りの大浴場と中浴場、小さな家族風呂がある。日帰り入浴は700円。渋川伊香保ICからR353経由で50分。
UPDATED 2026.09.24

