浴場の入口に、四つの項目が並んだ掲示があります。
加水、加温、循環ろ過、消毒。それぞれについて「あり」「なし」が書かれています。法令で表示が求められている内容です。
加水
源泉に水を足すことです。
理由の多くは温度です。草津温泉の源泉は高温で湧くため、そのままでは入れません。加水せずに冷ます方法として湯もみが行われてきました。長い板で湯をかき混ぜて温度を下げるこの作業は、加水を避けるための工夫です。
湯村温泉の荒湯は98度で噴き出します。ここまで熱いと、浴槽に入るまでに温度を下げる必要があります。
濃度が理由の場合もあります。玉川温泉はpH1.2前後と強すぎるため、50パーセントに薄めた浴槽が用意されています。薄めることが前提になっている湯です。
加温
源泉を温めることです。
泉温が低い温泉地では必要になります。25度以上あれば温泉として扱われますが、そのままでは入浴に適しません。
長湯温泉のように、あえてぬるい湯に長く浸かる使い方をする温泉地もあります。炭酸は温度が上がると抜けるため、加温すると特徴が失われます。
循環ろ過
浴槽の湯を濾過して再び戻すことです。
かけ流しは湯を捨て続ける方式なので、浴槽を満たすだけの湯が常に湧いていなければ成り立ちません。多くの温泉地が循環を併用しているのは、設備の都合というより湧出量の制約によります。
高湯温泉や乳頭温泉郷のように湯量に余裕のある場所では、加水も循環もせずに使っている宿があります。
消毒
塩素などによる殺菌です。
レジオネラ属菌への対策として保健所の指導で導入された経緯があります。循環式では実質的に必須ですが、かけ流しでも行っている施設があります。
匂いで気づくことがあります。硫黄泉のような強い香りの湯では分かりにくく、無色透明の穏やかな湯では気づきやすくなります。
「なし」が多いほど良いとは限らない
四つとも「なし」の湯は、確かに源泉に近い状態です。
ただし、そのぶん条件は不安定になります。かけ流しの浴槽は源泉の温度と外気に左右されるため、冬の露天風呂ではぬるくなり、夏には熱くなることがあります。
飯坂温泉のように湯が熱い温泉地では、加水の可否が湯ごとに決まっています。地元の方が守ってきた温度を崩さないための決まりで、勝手に水を足さないという作法があります。
湯そのものに向き合いたいなら「なし」に意味がありますが、快適さを求めるなら別の基準になります。
掲示を見る習慣
宿の紹介文や予約サイトの説明より、現地の掲示のほうが正確です。
「源泉かけ流し」とだけ書かれている場合、それが大浴場だけなのか、露天風呂も含むのか、客室の風呂はどうなのかまでは読み取れません。
浴場ごとに条件が違うことは珍しくありません。同じ宿でも、大浴場はかけ流し、露天風呂は加温、ということがあります。





